東京高等裁判所 昭和25年(う)3814号 判決
弁護人の控訴趣意第一点(理由不備、理由くいちがい)及び第二点(証拠によらないで事実を認定した違法、事実誤認)について。
起訴状の第二の二、の事実は昭和二十四年四月頃日不詳鹿島参宮線石岡駅から麻生へ向う列車内で紺色スフのズボン一着価格二百五十円相当を収受したというのであるところ、原判決はその日時を昭和二十二年十二月頃と変更して認定していることは所論の通りである。よつて案ずるに、一般に犯罪の日時は公訴事実の基本的な要素でないから、日時の多少の相違については敢て訴因変更の手続を経る必要がないものと考えられるが、犯罪の日時が犯罪の成否に重大な関係を持つような場合には被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞があるものとして訴因変更の手続を経且つ若し必要あるときはその防禦に必要な準備の期間を置かなければならない。
本件について見ると起訴状には被告人が昭和二十一年四月より同二十三年十一月迄土浦税務署直税課長として直接国税の賦課減免その課税標準の調査その他法の定むるところにより直税一般に関する職務に従事中と前書して前記第二の二、を起訴したことが明かで、日時関係上右昭和二十四年四月は、被告人が右職務中でないことが認められるから、起訴状の公訴事実自体に矛盾不備があることが一見明瞭である。このような場合においては裁判所は釈明権を行使して、右訴因の変更撤回等を検察官に命ずる等適当な措置を構ずべきであり、その手続をしないで判決において、右日時と異なり被告人の在職中の日時に変更認定することは許されないものと解せられる。蓋しそのような認定をすることは被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞が十分であるからである。然るに原審は右第二の二の訴因について、右の訴因変更をしていないことが記録によつて明かであるから、訴因変更手続に関する法令の違背があるものというべく、右違法は判決に影響を及ぼすことが明かであるから、原判決は所論の証拠関係並に連続犯の成否について検討するまでもなく、既にこの点において、破棄を免れない。従つて所論は結局理由ある帰するのである。
弁護人控訴趣意第三点(証拠によらないで事実を認定した違法)について。
原判決が理由第二の(イ)において、被告人が和昭二十一年十一月頃常盤線石岡駅から土浦駅に向う列車内で、防水マント二枚価格約六百円を収受した旨認定したこと、所論の広瀬松之助の検事に対する供述調書中に「それから間もなく白色の防水マント一枚を作つて列車の中で川尻課長にあげました」との記載があつてその間に枚数がくいちがつていること、その防水マントの価格についても原審公判廷における起訴状記載の公訴事実に対する認否の際の概活的なそのような品物を広瀬松之助から貰い受けたことは間違ないとの供述以外にはこれを認定すべき資料がないことはいずれも所論の通りである。
更に記録を精査すると記録第一六二丁以下被告人の検察官に対する供述調書中に被告人が貰い受けた防水マントは二枚であると記載されているがその価格については記載がない。
以上の資料を検討して見ると、被告人が広瀬から受取つた防水マントは一枚であると認めるのが相当であると解せられる(広瀬松之助の検事に対する供述調書第八八丁の該当部分「防水マント一枚」とある個所の「一」の上に墨のしみがあつて「二」と誤読される虞のある記載があり、これを基礎として被告人の右供述調書にも「二枚」との供述記載が為されたものと認められる)のみならず、原審認定の価格六百円については、被告人の前記概活的な供述以外に資料がなく、右概活的供述だけで直ちに右防水マントの価格を確定することは不十分不相当であると考えられるから、原審には右防水マントの枚数及びその価格について、審理不十分の点があり、ひいてこの点について事実誤認があると認められる。
而して右誤認は賄賂の没収追徴に関する刑法第百九十七条の四の適用上判決主文に影響を及ぼすことが明かであるから、所論は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。